「母さん…」
ドアの向こうから聞こえた声は
泣いていた
マザーコンプレックス2
あいつはよくここへ来る
帰る家があるはずなのに
あいつは戻らない
なぜかと聞けば
待っている人間が居ないからだという
「おい、起きろ」
そういって
ソファーを占領している人間の頭を
はたいてみた
すると
凄い力で手を掴まれた
それは『握る』とはいえない力だったから
俺は驚いて動けなかった
「…お前何してんの?」
「いや、お前が掴んだんだろ」
起きたこいつは
掴んでいる自分の手か
掴まれている俺の手を見ながら
「こんなごっつい手じゃないんだよなぁ」
といった
「はぁ?」
きっと寝ぼけているのかもしれない
それに
こいつの脈絡のない会話は
日常茶飯事だ
「腹減った」
「まずは、おはようだろ」
「オハヨウゴザイマス」
そういった後のあいつは
ちゃんといつものように
笑えていた
だから俺は
『何かあったのか?』
とは聞かなかった
「お母さん」
「誰がお母さんだ」
こいつの世話を焼く俺を
友人達は母親のようだといって
よくからかう
からかうくせに
こいつに何かあると
いつも俺に連絡が来る
昨日も
酔ったこいつをここへ連れてきたのは
こいつに酒を飲ませた友人達だ
「なんか母さんみたいじゃん」
「俺は男だ」
何気ない会話だった
「知ってる」
何気ない会話だったはずだ
「けど、もう少しだけ」
なのに
「俺のお母さんで居てよ」
そういったこいつの声は
酷く真剣だった
―俺のお母さんで居てよ
いつものこいつらしい
意味の解らない言葉
それでも今日はどこか必死で
こいつが何を抱えているかを
知っている俺は
かける言葉を思いつかなかった
ただ、解るのは
俺は母親って柄じゃない
だろ?
だからさ
「そんなもんに拘らなくてもいいだろ」
お前の居場所が
今はここだっていうんなら
ここにいればいい
お前は俺の友達なんだから
別に俺がお前の母親じゃなくても
「追い出したりしねーよ」
一生一緒にいる関係なんて
親子だけじゃねーんだから
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ヒトとの関係って、
きっと一人一人違っていて、
『友達』とか『家族』とか『恋人』とかっていうカテゴリーに
全部を分けてしまうことって
ヘンだと思いませんか?