コタツ主義 2
「おい、ふざけんなよ」
こいつが変な奴なんて事実は
百も承知
「何が?」
そう言って振り向くこいつは
フザケたりイタズラをしたり
なんていうことをする
おちゃめなタイプじゃなことも
俺はこの何年かでちゃんと学習した
「いや、お前が描いてるその絵」
「あぁ、これが何?」
それでも
問いかけずにはいられない
「まさかこれが俺なんて言わないよな?」
否定を期待して呟いた言葉は
「何で?これお前だよ?」
肯定として帰ってきた
目の前に広がる絵
キャンパスに描かれているのは
とてもじゃないが人間じゃない
ましてや、俺なんかであるはずがない
「いやいや、これ人間ですらないだろ」
「たしかに人間じゃないけど」
「なんだ、そいう事実は認識してるのかよ」
「だけど、俺にとってはお前だよ」
あぁ神様、俺に芸術を
理解する能力をください
それともあれか
もしかしたらこいつに
「俺の絵を描いて欲しい」
なんて頼んだ俺のほうが
フザケてるのか
「一応聞くけど」
「何?」
「これコタツだよな?」
「うん、コタツだよ」
「これが俺?」
「うん。なんで?」
なんでって…
察しろよ!
「いや…」
「…?」
「…」
「…?」
「…ありがとう」
「うん。どういたしまして」
そうか俺が間違ってるのか
変なことを言ったのは俺だ
何もかも全部変なのは俺だ
俺なんだ
そんな気がしてきた
「あのさ、聞いてもいい?」
「何?」
「なんでコタツが俺なの?」
「なんでって」
そういって俺を見たその顔は
『なんでそんな当たり前なこと聞くの?』
と語っていて
「温かいから」
そう答えたこの芸術家は
さもソレが世界の常識かのような
言い方をした
「は?」
「お前と居ると温かいから」
明らかに説明不足な状況なのに
あっけにとられている俺を残して
またキャンパスに向かうこいつが
俺は本当に理解できなかった
こいつはまさか
自分の考えていることが
世界共通の認識だとでも思っているんだろうか
こいつの言った言葉にあっけに取られて
俺はこいつがその絵を描き終わるまで
側にずっと突っ立ていた
そして
突っ立ちながら思った
このコタツは暖かそうだなと
ミカンが食べたくなるなと
なんだか家のコタツが懐かしくなるなと
こいつはそんな風に俺を思ってるのかと
そして
やっぱり芸術を理解するセンスは
俺には1ミリもないなと
心底思った