コタツ主義 1


「あぁーなんか映画みたい」

「青春映画?」

「そんな感じっす」

「はは、そうか?」


そう言ってあなたは笑うけど
俺にとってこの場所は異世界だ
というか次元時代の違う別世界
普段の俺にはありえない
テレビ画面の向こう側の世界なんだ


「逃げたくなったら
 逃げた方がいいこともある」

「俺は割りと普段から逃げてるんですけどね」

「いやっ、おっきく逃げるんだよ」

「おっきく?」

「そ」

「今みたいに?」

「そ」


そう言ってあなたは笑う
たしかに”おっきく”逃げたら
気持ちの持ちようが
大きく変わった気がする


「凄いですね」

「何が?」

「先輩がです」

「あはは、俺はなにも凄くないよ」


そう言った声は静かだった
顔は上を見上げていて
俺からはどんな表情なのか見えないから
少し不安になった

けど


「でも俺後半追い上げるタイプだからさ」


そういって俺を見たあなたは
笑っていた


「そしてお前もそうなんだよ」

「え?」

「足並みそろえるのは遅くても
 後半は追いついて追い越すんだろ」


その言葉に世界の空気が
変わった

ここはなんて温かい場所なんだろう
励まされているのに
全然苦しくない


「先輩ってコタツみたいです」

「は?なんだ急に」

「温かくて眠くなる」

「はは、そうか」

「ヒトが集まるし」

「お前みたいなのがね」


そういってまた笑った

この人はいつも笑ってる
だから俺は
この人の側にいることが温かい